先日のインヴィンシブル投資法人の分配金予想修正で利益超過分配金という言葉が出てきました。
このとき初めて見た言葉でしたので、
- 利益超過分配金とは何なのか
- それがあると良いのか悪いのか
といったことがサッパリ分かりませんでした。
ので、調べました。
利益超過分配金とは
REIT(リート)において、通常の分配金は当期純利益を原資として分配されます。
当期純利益を原資としているわけですから、当然ながら当期純利益以上の額は分配できません。
しかし、これはあくまで通常の分配金の話です。
場合によっては当期純利益を原資としない分配金も出すことができ、これを利益超過分配金と呼ぶようです。
なお、利益超過分配金の上限は減価償却費の6割と定められています。
リートは法人税の関係上、利益の90%超を分配する必然性があるため、「当期純利益を原資としない分配金」も出せば分配金の総額が利益を超過する可能性が高いので「利益超過分配金」という名前になったのでしょうかね。
言いたいことは分かりますが、分配額によっては利益を超過しない可能性もありますし、もうちょっといい名前はなかったのかなぁと思います…。
分配金の分類
「なるほど、当期利益以外を原資とした分配金が利益超過分配金なのね」で済めばまだ簡単だったのですが、利益超過分配金はここからさらに2つに分かれます。
通常の分配金は特に悩む部分もなく配当金と同じように考えておけば良いでしょう。
しかし、利益超過分配金はその原資によってさらに2つに分かれます。
原資が利益剰余金の場合は「みなし配当」となり、通常の分配金と同じように扱われます。
一方、原資が出資剰余金の場合は「みなし譲渡」となり、配当と同様にキャッシュは入ってくるけれど取得価額が下がるという特殊な処理が行われます。
今までの利益をため込んできた部分が利益剰余金ですので、それを原資とする超過分配金が「みなし配当」となるのは納得がいきます。
また、出資剰余金は…残念ながら私はよく理解できていないのですが、投資主から集めた資金との関係が強いものと思っておけば良さそうです。その出資剰余金を原資とするならば、投資主から集めたお金を返しているようなものですから「みなし譲渡」となるのも納得がいきます。
みなし譲渡の場合は「みなし譲渡損益」の計算が必要
先ほど書いたように、「通常の分配金」と「利益剰余金が原資の利益超過分配金」は特にすることはありません。
しかし「出資剰余金が原資の利益超過分配金」は「みなし譲渡損益」の計算が必要となります。
「みなし譲渡」では、利益超過分配金が貰える代わりに取得価額の一定割合が減額されます。
まず、分配金が貰えているのでキャッシュは受け取れます(プラス分)。
一方で、資本の払い戻しですから取得価額は下がります(マイナス分)。どのくらい下がるのかは投資法人が決めるので一律ではありませんが、0.1%とかその辺りの規模感です。
10000円で買ったはずの投資口が9990円で買ったことになってしまったとか、そんなイメージです。
最終的に損になるか益になるかは、プラス分(分配金額)とマイナス分(取得価額の下がった分)の合計によります。
取得価額の減額幅が割合で決まるため、もともとの取得価額が低いほど益になりやすいです。
要点としては、
- 分配金が貰えているのでキャッシュは増える
- 取得価額が減って損は出るけど、キャッシュアウトはないので会計的な損が出るだけ(強制的な損出しのイメージ)
- みなし譲渡によって株価(投資口価格)が変動するわけではないから、取得価額が下がった分だけ含み益が増える(含み損が減る)
といったところでしょうか。
この部分だけを見れば、年内に確定させた利益がある人にとっては、お小遣いをもらいつつ損出しをしただけな気がします。
もちろん、利益超過分配金を出したことによって間接的に投資口価格が上下することはあると思いますが。
具体的な数字を用いた計算については、リート投資法人が開示している説明資料(例:インヴィンシブル投資法人:第28期利益超過分配金に関するご説明)や、『おっさん投資家の泣き笑い日記 – REITの利益超過分配金について』が分かりやすかったです。
利益超過分配金を含む分配金の受取と損益の具体例
利益超過分配金を受け取る機会があったので、具体的な数字に基づいて状況を確認してみました。
例として扱うのはCREロジスティクスファンド投資法人(以下、CREロジ)の分配金です。
2018年12月期に権利確定した分配金は1口当たり3,351円ですが、そのうち372円は利益超過分配金です。
そして、この利益超過分配金はすべて出資等減少分配(みなし譲渡)に該当するとのことです。
私はこのときCREロジを4口保有していたため、受け取れる分配金は3,351円×4口=13,404円となります。
次に実際の入金額を見てみましょう。
入金額は10,985円で、受け取れる分配金の13,404円よりも少ないですね。
しかしこれは税金が源泉徴収されているから当然です。
そこで譲渡益税を見てみると、今回の分配金について徴収された税額は2,419円であることが分かりました。
現時点で株式の配当や譲渡益にかかる税率は20.315%ですので、分配金の13,404円×20.315% を計算すると2,419円になると思いきや、これがなりません。
なぜなら、分配金の一部(今回は1口当たり372円)は出資金等の戻り、つまりみなし譲渡に該当するからです。
ですので、税金計算の土台となる配当金収入は、みなし譲渡分を除いた分配金(1口当たり2,979円)×4口=11,916円となります。
そして 11,916円×20.315%≒2,419円 となり、源泉徴収額と一致していることが確認できます。
続いてみなし譲渡の方を見ていきましょう。
みなし譲渡分の分配金は1口当たり372円です。
また、減少剰余金等割合は0.004(つまり0.4%)とのことです。
2018年12月末時点での、私のCREロジの取得単価は110,719円でしたので、
110,719×0.4%≒443円が取得単価の減少分となります。
実際、いま口座管理画面でCREロジの取得単価を見てみると110,277円となっており、しっかりと減少していることが分かります。
取得単価の減少という強制的な損出しのような効果が1口当たり-443円分ある一方で、みなし譲渡分の分配金は1口当たり372円分あります。
これを保有口数全部で考えると
(-442円+372円)×4口=-284
となり、トータルでは損となります。
損益的には”損”なので源泉徴収はされていません。
でも、みなし譲渡分の分配金は現金で入金されています。
分かってしまえばそこまで不思議ではありませんが、ややこしいですね…。
利益超過分配金の是非
通常の分配金とは異なる利益超過分配金を出すのは良いことなのでしょうか。それとも悪いことなのでしょうか。
私の中での結論は、
- 絶対的な良し悪しはない
- 個人的には、理由によってはアリ
- 恒常的に通常の分配金を補填するだけになってたらヤバイ
です。
結局のところ、利益超過分配金を出すかどうかは「その投資法人のお金の活用スタンス」による部分が大きいです。
将来的に通常の分配金(当期利益)をしっかり出していけそうかどうかで判断すると良いでしょう。
例:インヴィンシブル投資法人の場合
【8963】インヴィンシブル投資法人では、利益超過分配金に関して以下のような方針を示しています。
本投資法人は、分配金の額を決定するに際し、中期的な分配金の安定性を維持することが最も重要な要素のひとつであると考えており、資産の取得や資金調達等に関連して、投資口の希薄化又は多額の費用を計上することにより、1口当たり分配金が一時的に減少することが見込まれる場合に、当該資産の取得や資金調達等の効果が通期で寄与したものと仮定した場合の1口当たり分配金額を基準として分配金を平準化するために利益超過分配を実施する方針を採用することとしています。
リートの場合、物件の取得や譲渡、資金調達の際にはどうしても大きな金額が動きます。
それに伴い当期純利益も大きく動きがちで、当期純利益を原資とする分配金も乱高下しがちになります。
1口当たり分配金額が激しく上下すれば投資口価格の値動きも激しくなるため、安定を求める投資家にとってはあまりよろしくないでしょうし、増資を検討する際にも不都合がありそうです。
個人的には、分配金額が安定してくれていた方が嬉しいです。
先日発表されたインヴィンシブル投資法人の予想分配金の修正に関しては、
・増資により1口当たり利益および分配金が大幅に減ってしまう
・今回の国内4物件の取得は8月の予定であるため、7月分の利益がまだ乗ってこない
・海外不動産匿名組合出資持分の受取分配金は初回の分配が2019年6月期中になるため、2018年12月期には乗ってこない
といった理由から利益超過分配金を出すとのことでした。
2019年12月期からはちゃんと利益が乗ってくる(=通常の分配金として出せる)わけですから、まさに一時的な分配金の穴埋めが目的です。
ですので、この利益超過分配金を出すという判断は妥当に思えます。
逆に、もし利益超過分配金を出す理由が「業績が悪いから通常の分配金が減っちゃうけれど、減配は嫌なので穴埋めしたい」とかだったらヤバいです。
翌期に業績が回復する見込みがあればまた別ですが、ひたすらに穴埋めを続けていくことになるなら未来はないでしょう。
利益超過分配金と減価償却費
利益超過分配金の上限額は、投資信託協会の規則で「その期の減価償却費の6割」と規定されています。
減価償却費は費用ですから当期純利益を減らす(=分配金を減らす)方向に作用します。
しかし、実際にどこかにお金を払うわけではないため、減価償却費分のキャッシュは投資法人の内部留保のような形になります。
減価償却費 / 減価償却累計額
利益の9割超を分配しなければならないリート投資法人にとって、この浮いたキャッシュをどう活用するかはけっこう重要なテーマと言えるでしょう。
使い道の一つには利益超過分配金が挙げられます。キャッシュが余っていると言えば余っているから投資家に還元しよう、という方法です。
そしてもう一つは内部・外部成長に使うという道です。既存物件に対する資本的支出に用いたり、新たな物件取得のための資金としたり、という方法です。
余裕があるなら分配して欲しいと考えるか、分配せずに再投資に回してほしいと考えるかは人それぞれでしょう。
自分の考えに合った資金の使い方をしてくれるリートを選ぶのも、長く保有し続けるためには大切に思えます。
最後に
色々と調べながら書いていてまとまりがなくなってしまいました。
分かりづらいところや間違いがありましたらご指摘いただけると助かります。