主にJ-REIT(以後、リート)の公募増資に関して、「プレミアム増資」と「ディスカウント増資」という言葉があります。
簡単に言えば、1口当たりの価値が上昇する増資がプレミアム増資、逆に1口当たりの価値が下落する増資がディスカウント増資といった意味合いで使われる言葉です。
※「増資プレミアム」とは意味が異なるのでご注意ください。
今回はこの2種類の増資を題材にして、直近の公募増資を見ていこうと思います。
プレミアム増資とディスカウント増資
リートの増資については、「発行価格は市場価格を基準としつつ、投資主利益の観点から、既存の1口当たり出資金を上回ることが重要とされてきた」そうです(出典:ニッセイ基礎研究所 J - REIT のディスカウント増資を考える)。
したがって、1口当たりの価値が上昇するプレミアム増資は投資家にとって良い増資、逆に1口当たりの価値が下落するディスカウント増資は投資家にとって悪い増資と言えます。
この記事で行うこと
公募増資の発表があった際に、その増資がプレミアム増資なのかディスカウント増資なのかを判断できれば投資判断に役立つはずです。
そこで、どちらの増資に該当するのかを判断するための練習をしつつ、投資口価格の推移と見比べてみよう、というのがこの記事の目的です。
「1口当たりの価値」については数字を拾いやすい「1口当たり純資産」と「1口当たり(資産・物件の)取得価格」を用いて、プレミアム増資orディスカウント増資の判断をすることにしました。
それと合わせて、増資によって投資口価格がどう変動したかを確認していきます。
直近の公募増資事例
【3282】コンフォリア・レジデンシャル投資法人
増資発表 | 2019年1月7日 |
---|---|
発行・売出価格決定日 | 2019年1月16日 |
公募による新投資口発行数 | 51,270口 |
第三者割当による新投資口発行数 | 2,570口 |
資産の取得予定価格 | 18,650百万円 |
A:1口当たり純資産 | 175,544円 |
B:発行価格 | 264,321円 |
B-A | +88,777円 |
上記の内容で増資および資産取得を行った場合、1口あたり取得価格などの増減は以下のようになります。
増資前 | 増資後 | 増減 | |
---|---|---|---|
取得価格(百万円) | 206,084 | 224,734 | +9.04% |
発行済投資口数(口) | 586,994 | 640,834 | +9.17% |
1口当たり取得価格(円) | 351,083 | 350,689 | -0.11% |
1口当たり分配金(円)※ | 予想なし | 5,000 | ― |
※2019年7月期
1口当たり純資産よりも明らかに高い金額での公募増資となっており、プレミアム増資と判断して良さそうです。
一方、取得価格の増加率よりも発行済投資口数の増加率の方が高かったため、1口当たり取得価格は減少しました。
1口当たり分配金については、この時に初めて公表されたため増減の比較はできません。
さて、1月7日の引け後に増資が発表されてからの投資口価格の推移を見てみましょう。
東証REIT指数と比較しても強い値動きとなっています。
なお、1月末に分配金の権利確定日がある点については考慮すべきかと思います。
【8985】ジャパン・ホテル・リート投資法人
増資発表 | 2019年1月8日 |
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発行・売出価格決定日 | 2019年1月16日 |
公募による新投資口発行数 | 447,800口 |
第三者割当による新投資口発行数 | 3,700口 |
資産の取得予定価格 | 65,138百万円 |
A:1口あたり純資産 | 48,301円 |
B:発行価格 | 76,342円 |
B-A | +28,041円 |
上記の内容で増資および資産取得を行った場合、1口あたり取得価格などの増減は以下のようになります。
増資前 | 増資後 | 増減 | |
---|---|---|---|
取得価格(百万円) | 309,370 | 374,508 | +21.0% |
発行済投資口数(口) | 4,010,847 | 4,462,347 | +11.2% |
1口当たり取得価格(円) | 77,133 | 83926 | +8.8% |
1口当たり分配金(円)※ | 予想なし | 3,686 | ― |
※2019年12月期
1口当たり純資産よりも明らかに高い金額での公募増資となっており、プレミアム増資と判断して良さそうです。
また、発行済投資口数の増加率よりも取得価格の増加率の方が高かったため、1口当たり取得価格が増加しています。
1口当たり分配金については、この時に初めて公表されたため増減の比較はできません。
増資の発表があった1月8日以降の投資口価格の推移は以下のようになっています。
増資発表直後は下げたものの、その後は一気に盛り返してきています。
【3471】三井不動産ロジスティクスパーク投資法人
増資発表 | 2019年1月9日 |
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発行・売出価格決定日 | 2019年1月23日 |
公募による新投資口発行数 | 110,700口 |
第三者割当による新投資口発行数 | 5,526口 |
資産の取得予定価格 | 53,128百万円 |
A:1口あたり純資産 | 279,340円 |
B:発行価格 | 313,986円 |
B-A | +34,646円 |
上記の内容で増資および資産取得を行った場合、1口あたり取得価格などの増減は以下のようになります。
増資前 | 増資後 | 増減 | |
---|---|---|---|
取得価格(百万円) | 103,585 | 156,713 | +51.2% |
発行済投資口数(口) | 262,774 | 379,000 | +44.2% |
1口当たり取得価格(円) | 394,198 | 413,490 | +4.8% |
1口当たり分配金(円)※ | 6,065 | 6,375 | +5.1% |
※2019年7月期
1口当たり純資産よりも明らかに高い金額での公募増資となっており、プレミアム増資と判断して良さそうです。
また、発行済投資口数の増加率よりも取得価格の増加率の方が高かったため、1口当たり取得価格が増加しています。
1口当たり分配金についても、今回の増資&資産取得によって増加となりました。
増資の発表があった1月9日以降の投資口価格の推移は以下のようになっています。
増資発表前と比べて10%近く投資家口価格が上昇しています。
1月末が分配金の権利日となっていることも影響していそうです。
【3455】ヘルスケア&メディカル投資法人
増資発表 | 2019年1月11日 |
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発行・売出価格決定日 | 2019年1月22日 |
公募による新投資口発行数 | 112,280口 |
第三者割当による新投資口発行数 | 5,614口 |
資産の取得予定価格 | 22,691百万円 |
A:1口あたり純資産 | 105,238円 |
B:発行価格 | 111,442円 |
B-A | +6,204円 |
上記の内容で増資および資産取得を行った場合、1口あたり取得価格などの増減は以下のようになります。
増資前 | 増資後 | 増減 | |
---|---|---|---|
取得価格(百万円) | 42,190 | 64,881 | +53.7% |
発行済投資口数(口) | 193,107 | 311,001 | +61.0% |
1口当たり取得価格(円) | 218,479 | 208,619 | -4.5% |
1口当たり分配金(円) | 3,130 | 3,530 | +12.7% |
※2019年7月期
1口当たり純資産よりも明らかに高い金額での公募増資となっており、プレミアム増資と判断して良さそうです。
一方、取得価格の増加率よりも発行済投資口数の増加率の方が高かったため、1口当たり取得価格は減少しました。
1口当たり分配金についても、今回の増資&資産取得によって増加となりました。
増資の発表があった1月11日以降の投資口価格の推移は以下のようになっています。
東証REIT指数よりはやや強く推移していますが、他の3銘柄に比べるとパッとしません。
一応、1月末に分配金の権利日確定日も控えています。
最後に
直近の公募増資事例はいずれもプレミアム増資でした。
今回の4件を比較した限りでは、
- 1口当たり純資産に対して発行価格が十分に高い
- 1口当たり取得価格が上昇する
といったケースであるほど、投資口価格の推移が良好であるように感じました。
リートの公募増資について投資判断を下す手段を1つ手に入れましたので、今後の増資発表時にはしっかり確認していこうと思います。