J-REITに手を出している人ならインフラファンドという言葉も一度は目にしたことがあるはずです。
インフラファンドとは電力、交通、水道などインフラ事業への投資を専門とするファンドの通称で、2019年1月現在で5法人が上場しています。
私は今まで上場インフラファンドへの投資をしっかりと検討したことがなかったので、今回あらためて検討してみました。
なお、結論はタイトルの通り「壮大なチキンレースにしか見えない」です。
インフラファンドとは
インフラファンドは簡単に言えばJ-REIT(リート)のインフラ版です。
インフラと言っていますが、現状では太陽光発電施設が投資対象になっているものしか上場していません。
例えばタカラレーベン・インフラ投資法人の場合は以下のような仕組みで運営されています。
太陽光発電施設で作った電力を売電し、その一部が賃料という形で入ってきて、更にその一部が分配金として投資家に渡る仕組みになっています。
上場しているインフラファンド
今のところ5法人が上場しています(リンク先はヤフーファイナンス)。
- 【9281】タカラレーベン・インフラ投資法人
- 【9282】いちごグリーンインフラ投資法人
- 【9283】日本再生可能エネルギーインフラ投資法人
- 【9284】カナディアン・ソーラー・インフラ投資法人
- 【9285】東京インフラ・エネルギー投資法人
また、2019年2月13日に【9286】エネクス・インフラ投資法人が上場予定となっています。
よく見かけるインフラファンドのメリット・デメリット
メリット
- 配当利回りが高い(6~7%程度)
- 再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)により売電価格が固定され、インフラファンドの賃料収入も長期的に安定する
- 不景気(デフレ)に強い
高い配当利回りは魅力的ですね。
しかもFIT制度のおかげで今後十数年は分配金が安定して受け取れるはずです。
デメリット
- 収益の上振れも期待できない
- インフレに弱い
- 20年後にも分配金の二重課税を回避できるかが不透明(導管性の取扱い問題)
- FIT制度の期限が切れた後の収益低下懸念
リートの場合は要件を満たすことで実質的に法人税が非課税となる仕組みがあります。
インフラファンドでも同様の仕組みがあるのですが、こちらは20年間という期間が定められており、これを過ぎたらどうなるの…?という部分がまだ決まっていません。
もちろん、延長等の決定がなされる可能性もありますが、確定するまでは不安が付きまといます。
また、十数年後には続々とFIT制度の期限切れを迎える太陽光発電施設が出てきます。
そうなった時にインフラファンドはどうなるのか…ここが個人的には最大の懸念ポイントです。
FIT切れ後のインフラファンドはどうなる?
固定価格買取制度(FIT制度)の期限切れとなるまでの平均残存期間は、2018年6月時点で以下の通りだそうです。
- カナディアン・ソーラー・インフラ…18.5年
- 日本再生可能エネルギー・インフラ…17.8年
- タカラレーベン・インフラ…17.4年
- 東京インフラ・エネルギー…16.7年
- いちごグリーン・インフラ…16.5年
出典:20代の資産運用記録~長期投資~ 【高利回り投資】上場インフラファンドの銘柄比較
どのインフラファンドも複数の太陽光発電施設を保有しており、一斉に期限切れを迎えるわけではありません。
しかし、十数年が経過した辺りから徐々に期限切れとなる施設が出てくることになります。
当然、各インフラファンドは今後も運用資産の拡大を目指していくでしょうから、新たな施設や設備を取得したり、FIT切れ後も新たな売電価格で契約を更新するなどしていくはずです。
その時にインフラファンドはこれまでの投資利回り(※)を維持あるいは上回ることができるのでしょうか、それとも平均売電価格の低下に伴って利回り(※)が低下していくのでしょうか。
※投資家にとっての分配金利回りではなく、インフラファンドにとっての、設備・施設投資に対する賃料収入という意味での利回り。
残念ながら、「既存施設のFIT切れ後にどうなるか」といった記述は各インフラファンドの公式サイトを探しても見つけられませんでした(見落とした可能性もありますが、少なくとも目立つ場所にはありませんでした)。
しかし、投資リスクとしてはしっかりと認識されており、野村證券は「上場インフラファンドに関するご参考資料」の中でFIT制度にまつわる主なリスクとして以下の2点を挙げています。
- 保有する発電設備の買取期間が満了した場合は、収入が減少する可能性があります。
- 調達価格が下落した場合や制度が変更・廃止された場合、新たに取得する発電設備の収益性は現在保有する発電設備に比べて低下するなどの影響があります。
私はこの部分についてかなり悲観的に見ているのですが、どうなんでしょうね…。
最低保証賃料で見る20年後の姿
タカラレーベン・インフラ投資法人が2018年5月に公開した「国内インフラ資産の取得及び貸借に関するお知らせ」には、この時に取得を決定した物件の将来20年分の最低保証賃料が記載されていて、これがなかなかに興味深いです。
参考にした「牛熊日誌 インフラファンドの運営は20年間の収益をどう見ているのか」では「LS 三重四日市発電所」の数字を使っていましたので、ここでは取得価格が大きい「LS 白浜発電所」の最低保証賃料を見てみます。
最低保証賃料 | 前年比 | 1年目比 | |
---|---|---|---|
1年目 | 318,216,952 | ― | ― |
2年目 | 316,617,869 | -0.50% | -0.50% |
3年目 | 315,018,787 | -0.50% | -1.01% |
4年目 | 313,419,737 | -0.50% | -1.52% |
5年目 | 311,820,654 | -0.51% | -2.04% |
6年目 | 310,221,570 | -0.51% | -2.56% |
7年目 | 308,622,485 | -0.51% | -3.09% |
8年目 | 307,023,403 | -0.51% | -3.62% |
9年目 | 305,424,317 | -0.52% | -4.16% |
10年目 | 303,825,234 | -0.52% | -4.71% |
11年目 | 302,226,150 | -0.52% | -5.26% |
12年目 | 300,627,065 | -0.52% | -5.82% |
13年目 | 299,027,982 | -0.53% | -6.38% |
14年目 | 297,428,933 | -0.53% | -6.95% |
15年目 | 295,829,849 | -0.53% | -7.52% |
16年目 | 294,230,767 | -0.54% | -8.10% |
17年目 | 292,631,683 | -0.54% | -8.69% |
18年目 | 291,032,597 | -0.54% | -9.28% |
19年目 | 289,433,513 | -0.54% | -9.89% |
20年目 | 79,953,999 | -72.37% | -82.32% |
この「LS 白浜発電所」はFIT制度の残存期間が約19年残っていたので、19年目までは経年劣化しながらも安定した賃料収入を得られる予定となっています。
しかし、FIT切れとなる20年目は最低保証賃料が大幅に減少する(1年目比で-80%以上)ことから、タカラレーベン・インフラ投資法人が受け取れる賃料自体も大きく減少するものと思われます。
これは参考記事の「LS 三重四日市発電所」と同様の傾向です。
FIT制度の買取価格は、2012年度は40円/kWhでしたが、2018年度は20円/kWh前後(入札制度になったため落札価格によって変動)となっています。
将来的には買取価格が11円/kWh程度になると言われており、先ほどの「LS 白浜発電所」は買取価格が36円/kWhです。
FIT切れとなり売電価格が36円→11円となれば70%減ですから、最低保証賃料の下落幅と見比べても「確かにそうなりそう」という印象です。
売電価格の減少をカバーできるだけの何かがあるか
既存の物件に関して言えば、18年後くらいにはFIT切れにより賃料収入が7, 8割減くらいになることが予想されます。
それまでに新規物件を取得したとしても、売電価格はインフラファンド開始時のように高額ではない場合が増えてくるはずです。
そうなった時に、新規物件での発電効率上昇や運営管理費などのコスト削減で賃料収入の減少分をカバーできるのでしょうか。
もし無理なのであれば、FIT切れ物件が出てくるにつれて利益率が低下し、インフラファンドの魅力は薄れていくことになります。
インフラファンドへの投資はチキンレース?
私には今のところ、売電価格の減少をカバーできるほどの何かがあるとは思えません。
したがって、十数年後にはFIT切れによる収益性低下が見えてきて投資口価格が下落していくと予想しています。
FIT切れに伴い20年後くらいにインフラファンドがダメになるという前提でいくと…
分配金利回りは高いですから、「ギリギリまで分配金を受け取っておき、インフラファンドがダメになりそうになったら売ってしまえ」と考えている投資家はけっこういるのではないでしょうか。
その「ギリギリ」の時がくるまでは投資口を握り続け、「ギリギリ」がくる前に売却してしまった投資家は臆病者…そんなチキンレースをしているように思えてなりません。
もちろん、「ギリギリ」の時になっても投資口を握りしめていたら、投資口価格の下落という痛い目に遭うことになります。
いまインフラファンドに投資している方々はどういう視点で投資しているのかとても気になります。
単純に分配金利回りを見て投資し、知らず知らずチキンレースに参加しているのでしょうか。
それとも私が見落としている何かが見えていて、むしろインフラファンドに将来性を感じているのでしょうか。
再生可能エネルギーは国策が絡むので、そういう意味では追い風は吹いているのですが…。
最後に
そもそも私は再生可能エネルギーをゴリ押しすること自体に反対の立場です。
再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)なんてものを税金のように徴収してまでする必要があるとはとても思えません。
しかも好景気ならまだしもデフレ脱却がまともにできていない状況で国民の可処分所得を減らすなんてアホらしい…。
先月の電気料金を見ていたら、電気代の10%近くがこの再エネ賦課金でした。
そんな再エネ賦課金が巡り巡って分配金として手元に来ても複雑な気持ちになるだけです。
それでイラっとしながら書いたのがこの記事ですので、その辺りの事情は差し引きながら読んでいただければ幸いです。