確定した利益や受け取った配当金があり、かつ含み損を抱えている銘柄があるなら、損出しクロス取引の出番です。
注意点を踏まえつつ、節税効果が期待できそうなら年内に済ませておきましょう。
損出しクロス取引の目的
損出しクロス取引の主な目的は節税です。
例えば今年の譲渡益と配当所得がこんな感じだったとしましょう↓
譲渡益と配当金を合計すると27万円ほどのプラスとなっています。
そして左側の徴収額を見ると分かるように、このままいくと5万円以上が税金として持っていかれてしまいます。
一方で、現在の保有株を見ると含み損になっているものがいくつもあります(悲しい)。
その含み損になっている株をいい感じに売却し、損失を実現させることで徴収される税額を抑えよう!というのが損出しクロス取引の目的です。
損出しクロスによって「譲渡損益+配当金額」が0に近づけば、それだけ税額も小さくなります。
「譲渡損益+配当金額」をマイナスにできれば税額は0になり、確定申告をするのであれば損失を翌年以降3年間繰り越すことも可能です。
損出しクロス取引の具体的な方法
損出しクロスの手順は簡単です。
- 損出ししたい銘柄を 現物売 & 信用買
- 信用買いした分を翌営業日に現引きする
これだけです。
そして以下の理由から、通常は寄成や引成で注文を出します。
- 現物売と信用買は同じ価格で行わないと損する可能性がある
- 仮装売買(後述)と判断されるリスクを減らす
取引が始まる前に成行注文を出しておけば大丈夫でしょう。
損出ししたい銘柄を 現物売 & 信用買
今回は例として含み損たっぷりだったキヤノンをクロス取引しました。
現物を売ると同時に、同数を信用買いをしています。
これで含み損を確定したことになるので、損益金額と譲渡益税徴収額が減少しました。
【Before】
↓
【After】
減少した譲渡益税徴収額はすぐに預金の方に反映されています。
※配当金の方も数字が変わっているのは、たまたまこのタイミングで配当金の入金があっただけで、損出しクロス取引とは関係ありません。
信用買いした分を翌営業日に現引きする
翌営業日に、信用買いした分を現引きしました。
これで損出しクロス取引は完了となります。
損出しクロス取引の注意点
同一営業日で完結してはいけない
同一営業日での取引は買い(現引き)が先に計算されるため、損出しクロス取引の現引きを同一営業日に行ってしまうと損出し効果が半減してしまいます。
理屈はよく分からなくても、とにかく現引きは翌営業日に行うようにしましょう。
手数料を考慮する
今回の例では約1.7万円が節税できましたが、そのために行った売買によって約900円の売買手数料がかかっています。
手数料は事前に売買代金から予測できるので、節税額(損出し額)と比較して割に合うかどうかを確認しておきましょう。
「わずかな節税のために売買手数料をたっぷり支払う」なんてことにならないようご注意ください。
配当金の徴収額は翌年1月に還付される
譲渡益税徴収額(売買益にかかる税金)は損出しによってすぐ戻ってきますが、配当金の方にかかる配当所得税はすぐに戻ってはきません。
SBI証券の場合、翌年の年初(1月)に還付されるとのことです。
特定口座で配当所得と損益通算が行われた場合、還付はいつ頃行われますか?
年間の特定口座内に算入された配当所得・利子所得合計と、国内株式、外国株式、および債券・公社債投信等の譲渡損失から損益通算が行われるため、源泉徴収税額の過納分の還付は翌年の年初(1月)に行われる予定です。
仮装売買と思われないようにする
仮装売買とは、金融商品取引法で規制されている相場操縦的行為の1つです。
クロス取引自体は違法でもなんでもありませんが、仮装売買は立派な違法行為です。
【仮装売買】
ある特定の株式の売買が繁盛に行われていると他の投資家に誤解させ、取引を誘引することを目的として、同一人物が同じ時期に同じ価格で売買両方の注文を発注するといった、権利の移転を目的としない取引のことをいいます。
クロス取引がどこから仮装売買とみなされるかについては明確な基準がありません。
そのため、証券会社によってはクロス取引をしようとすると確認画面で注意喚起文が表示されたり、エラーで弾かれたりすることがあります。
今回の例は大丈夫?
例として損出しをしたキヤノンのこの日の出来高は387万株でした。
そのうちの200株が私の損出しクロスだったわけですが、出来高の多い引成でこの規模なら意図的に売買高を膨らませたと受け取られる可能性は極めて低いでしょう。
しかし、こちらの目的が節税であろうが何だろうが仮装売買と判断されてしまったらアウトなので、100%安全とは断言できません。
100%安全に損出しをしたい場合
損出しクロスで節税している個人投資家は多数いますが、どんなに小額であっても仮装売買と認定されてしまったら金融商品取引法違反です。
そんなリスクは100%と回避したいという場合は、証券会社のクロス取引サービスを利用するのが1つの手です。
例えばSBI証券にはクロス取引サービスが用意されています。SBI証券が取引相手となり、仮装売買にならないよう立会外取引で取引を行うことができます。
ただし、手数料の最低ラインが高いです(SBI証券の場合は10,800円)。他の証券会社もざっくり見た感じではそれなりにかかるので、リスクの高い大口取引でないと割に合わなさそうです。
費用を抑えつつ仮装売買リスクも回避したいなら、
- 1日目に現物売
- 2日目に現物買
がシンプルで良さそうです。
この方法では当然ながら値動き次第で損失が膨らむ可能性はあります。しかし、仮装売買には該当しなくなります。
また、取引回数がクロス取引よりも少ないので手数料負担は2/3程度に抑えられます。
最後に
損出しクロスで含み損を確定させることで、必然的に保有銘柄が含み益状態になりやすくなります。
含み損を見ているよりは含み益を見ていた方が気分がいいですから、そういった意味でも損出しクロスで口座をリフレッシュさせておきたいものです。
また、別の証券会社やロボアドバイザーなど複数の特定口座がある場合は、確定申告をすれば全てをひっくるめて損益通算ができますので、その点も検討してみてください。
【参考1】2018年の損出しクロス記事
【参考2】2019年の損出しクロス記事(こっちの方が2018年よりも細かく色々と書いてあります)